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日本郵政のトール買収失敗の根本的原因は何か?

2021.04.28 カテゴリ: M&A企業経営での留意点経営戦略

1.トールの損切り処理

 1日のロイタ―の記事の引用ですが「日本郵政は21日、豪州流通子会社トール・ホールディングスのエクスプレス(国内貨物輸送等)事業を現地の投資ファンドに約7億円で売却すると発表した。売却に伴い、2021年3月期連結決算に674億円の特別損失を計上する」と発表しました

 トールは3つの部門、エクスプレス部門(国内貨物輸送等)、フォワーディング部門(貨物輸送・通関)ロジスティックス部門(梱包・倉庫管理)のうち、エクスプレス部門を売却するもので要するに不採算部門の切り離しです。トールは日本郵政が2015年5月に約6.5億豪ドル(約6200億円)で買収しました。しかし、2017年4月には約4000億円の減損計上となり、今回も674億円の特損計上とある意味鮮やかな失敗です。

 これは高値掴みだったのでしょうか?よくEV/EBIDA倍率(企業価値÷EBITDA)がその判断に使われ、10倍程度が目安といわれそれ以上は高い、それ以下は安いといった感覚がありますが、トールは9.2倍でした。時価総額4100億円に対してもプレミアム5割程度です。このあたり極端に高値掴みとはいえません。

 ただし、買収価額約6200億のうち、のれんが4000億以上あり、のれんが買収価額の半分以上となりこれはかなり高いでしょう。しかし、のれんは「超過収益力」ですから要するに現状かなり収益力が高い会社、又は日本郵政が収益力を高める自信があれば問題はありません。

 それでは、なぜ失敗したのでしょうか。一つはデュ―デリジェンス(本来デューデリジェンスは買収監査で被買収会社の資産・負債・法務上のリスクビジネスの将来性、社内文化や人材などを総合的に評価する手続です)の失敗でしょう。ます、これを見ていきます

2.デュ―デリの失敗

 2017年の日本郵政長門社長の記者会見を聞けばなぜ失敗したかが明らかにわかります。記者の「デューデリジェンスは誰がやったのか」という質問に対して「みずほ証券」という回答をしたそうです。ようするに投資銀行にデュ―デリを丸投げした結果、悪い言葉を使えば食い物にされたと思われます。投資銀行は買収が成立して始めて巨額のアレンジメントフィーが入るのだから買収を勧めるのは当たり前です。これを、ざっくばらんな例をあげればこんな感じです。

 クロスボーダーM&Aはいわば高級マンションの一室で行われるヤクザが主催する麻雀のようなものです。日本郵政のような会社が参加するというのは、麻雀の初心者が、イカサマもできるようなプロ雀士しかいないそこでの高レートの麻雀にいきなり参加するようなものだったでしょう。しかも、投資銀行の言いなりになるのは一緒に卓を囲むプロ雀士にアドバイスもらいながら麻雀を打っているようなものですから勝てるわけがないです。お金だけは持っているので美味しいお客、しっかり有り金すってゲームオーバーでした。デューデリジェンスで投資銀行、会計事務所、弁護士事務所などははっきり言ってしまうと単なる外注です。デューデリジェンスを主導するのは、買収する会社自身、社内M&A社専門部隊や将来この分門を運営する予定のチームであるはずです。

しかし、デュ―デリで多少失敗してもPMI(買収後統合)でリカバリーは可能なはずです。しかし、ここでも失敗しています。

 

3.PMIの失敗

 本来PMIもデュ―デリを進める中である程度並行して作ってしまいます。そして、多少買収完了後検証をして、理想的には90日以内に計画発表して実行するのです。よく買収後は人心が安定していないので・・・などと何もしない日本企業の経営者の話を小耳にはさみますが逆で、買収後、従業員の心が安定しないうちに一気に変化を起こしてしまい早く安定した状態にするのが経営者の役目です。雨降って地固まるをさっさとやってしまうわけです。

 日本郵政の場合はどうでしょうか。ト―ルは買収成立後から業績は急降下し、2017年3月には買収前の464億豪ドルから2018年3月に69億ドルの営業利益まで急降下していきました。そしてようやく17年1月になって経営改革に着手、経営陣の交代、人員削減などを始めています。

 リストラの際に景気の落ち込みとバックオフィスのオペレーションの非統合、ITシステム統合の問題による高コスト体質を挙げていました。しかし、これは買収時または買収後まもなくにはある程度わかっていたはずで1年以上PMI(買収後統合)の中で何も手を打っていなかったというのは明らかなPMIの失敗です

 加えてこの時点で経営陣との対話を行いガバナンス強化するなどと発表しているのも驚きです。対照的なのはサントリーのビーム買収で当時の新浪社長は最初からビーム社に乗り込み徹底的に先方の経営陣と話しこみました。サントリーの文化・経営戦略を相手にも理解してもらうようトップ自ら汗を流してやったわけです

 2017年3月の減損時からエクスプレス部門は連続赤字で2020年3月には100億豪ドル近い赤字を計上しています。今回ようやく事業を売却しましたがスピード感が全くないといっていいでしょう。M&Aに慣れた会社、例えば日本電産などであればであれば遅くとも買収後90日以内には何かしらのテコ入れに着手していたに違いありません。

 いわば、高レートの麻雀で負けてヤミ金からお金を借りてしまいダラダラと金利払っていたがようやく今回弁護士などを入れて債務整理したようなかんじでしょうか。

 まともなデュ―デリをしない、PMI計画がなく、経営トップが統合のために汗を流していない(ように見える)経営判断が遅い・・・と海外M&Aが失敗するポイントを列挙してくれるような案件だと思われます。公表された数字や決算発表を拝見し、記者会見などの発表を聞く限り残念な経営チームが起こした人災といえる出来事としか感じません。

 

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