ある中堅企業の倒産の理由
2022.09.12 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.ある老舗企業の倒産
日経トップリーダーという雑誌に「破綻の真相」という記事が連載されています。ここである埼玉県の一斗缶の製造メーカーの話が取り上げられていました。この会社、今年の6月に自己破産を申立て、
即日開始決定負債総額は約16億円でした。創業は1950年、この会社は食用油向けなと食品関連が多く大手の上場企業も取引先、2012年には売上20億程度に達していたような中堅企業です。
ただ、市場の状況は1990年代から厳しい状況が続き、1990年度に業界全体で約2,3億だった出荷数も2021年度には約1.3億まで低下の一途をたどっています。需要家の海外移転やポリ容器への転換が原因といわれています。しかも一斗缶はJISで定められた規格品なので差別化ができないです。当然結果として価格競争しかなく、縮小する市場でパイを奪い合う典型的レッドオーシャンの状況でした
2.倒産に至る経緯
このような厳しい状況で工場長が退職するという事件が起きました。その後品質管理が不安定になり
クレームが発生、この後も工場長が定期的に入れ替わるような状態が続きどんどん業績は悪化していきました。品質が安定しないと売上げ減少時にもかかわらず社員が深夜残業しているようなこともあったようです。おそらく想像するに売上減少→厳しいコストカット→社員のモチベーション低下→売上低下といったマイナススパイラルが起きていた可能性が高いです。
とどめを刺したのがコロナ禍、売上は16億程度まで低下、そこに原料や運賃の高騰も加わり2021年には売上12億まで低下、借入金も膨れ上がり銀行支援も見込めず、息絶えてしまったというところです。
しかし、手をこまねいてコストカット以外何もしていなかったわけではなかったようです。新製品開発もしていました。2019年には健康被害の可能性のある化学製品を使わない製品を販売開始していました。ただ、縮小する市場の中で手を打つのが遅すぎたといえるでしょう。後だしじゃんけん的ではありますが、もう少し早めに見切りをつけて、手を打つべきだったのでしょう。
3.縮小する市場で生き残るには
こういった縮小市場でよくある錯覚が残存者利得という考え方です。市場が縮小しても、その中で倒産・廃業して撤退していく企業があるのでコストカットなどで耐え忍べば何とかなるという考えです。残念ながら日本人は我慢強い人が多いせいか、耐え忍ぶ企業はけっこう多いです。そして、たいてい、市場の縮小するスピード>退出する企業の売上といった関係になります。さっと見切りをつけるのではなく、みなぎりぎりまで頑張ってしまいますから。耐え忍んでも市場が縮小していくスピードが速く、かつ耐え忍ぶので安値競争が本当にしんどくなります。
ただ、一方、この市場縮小のスピード、ショックを与えるほど激しいわけではないです。したがって、ゆでガエルのような緩慢な死を迎えることとなるのです。残酷な事実としては、業界最大手レベル以外は縮小する市場ではまともに生き残れないといえます。それを従業員の深夜残業などの無理な貢献とコストカットで乗り切ろうとするから社内のモラルが低下してしまいます。
とは言え、経営者の判断として、真綿で首を絞めらるような状況であり、この企業にとってすごく判断は難しかったと思われます。しかし、やはり最後のチャンスだったのは最高売上20億を記録した2012年まで、こういった上昇時に縮小する市場を見越し、資金もある程度潤沢であったときに、新商品、新規事業などにテストをやっておけばストーリーは変わったと思われます。
市場の縮小による緩慢な死を防ぐ、古くからの課題ですが反面教師として学ぶべき事例だと思いました。