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「社外の監査等委員の存在感は皆無に近い」──第三者委員会のこの一文が、すべての社外役員を凍らせた

2026.05.25

目次

1.ニデック会計不正の第三者委員会の最終報告での衝撃の言葉

 2026年4月17日、ニデック株式会社が第三者委員会(委員長: 平尾覚弁護士)の最終調査報告書を公表しました。同社の会計不正は、過年度の営業利益累積で1,664億円のマイナス影響、加えて車載事業ののれん及び固定資産で約2,500億円規模の減損損失追加計上の可能性という、戦後の上場企業会計不祥事の中でも極めて大規模な事案となりました。

 私はこれまで複数の東証上場会社で常勤役員や社外取締役(監査等委員)を務めてきました。公認会計士・税理士として、また事業会社のCFO経験者として、取締役会や監査等委員会の現場に身を置いてきた人間です。その立場から、今回のニデックの報告書を読んで率直に感じたことを、私見として記してみたいと思います。

 報告書を精読して最も胸に刺さったのは、第三者委員会が社外取締役について「一連の出来事において、社外の監査等委員(監査役)の存在感は皆無に近いといってよい」と書いた一節でした。社外役員を経験してきた者として、これは決して他人事として読める表現ではありません。「機能していなかった」と名指しされる前に、自分だったら何ができたのか。その問いから逃げずに考えてみたいと思いました。

2.もし自分がニデックの監査等委員だったら防げたか

 正直に答えます。おそらく無理だったと思います。それはなぜか以下理由を述べてみたいと思います。

 第一に、ニデックの内部監査部門は極めて強力でした。1990年代、永守氏自身が子会社の会計不正に接したことをきっかけに、会計監査に特化した部署を内部監査部門内に設置しています。会計事務所出身者など専門人材を揃え、年間60拠点もの会計監査を実施していました。これは他の多くの上場企業には見られない特徴であり、第三者委員会も「会計監査という側面で捉えるならば、他の企業以上に監査体制は充実していたともいえる」と評価しています。社外役員の経験から言えば、これだけの内部監査体制がある企業は、むしろ「安心できる会社」に分類してしまいがちです。

 第二に、外部監査人はPwC京都(後にPwC Japan)という一流の監査法人であり、毎年無限定適正意見を発行していました。社外監査等委員の立場で、専門性の高い大手監査法人が「適正」と判断したものを、月一回の取締役会と監査等委員会への出席を主たる情報源とする社外役員が覆すというのは、現実問題として容易ではありません。

 第三に、最も本質的な理由ですが、ニデックの会計不正の根本原因は永守氏のトップダウンによる非現実的業績目標と、それを達成しなければ人事権で排除されるという苛烈な圧力にありました。これは個別の会計処理の問題ではなく、企業統治の根幹に関わる問題です。第三者委員会のヒアリングに対し、内部監査部門の担当者でさえ「永守氏のお気に入りである執行役員の問題を安易に取り上げると逆にやられると思った」と述べているような環境で、社外役員である自分単独で永守氏の経営スタイルそのものを問題提起できたかと言えば、率直に言って疑わしいと思います。

 ただ、会計不正を防げなかったとしても、何とか監査当委員会が機能して何らかの歯止めになったかもということを考えてみたいと思います。

3.それでも公認会計士として「しいて言えば」できたかもしれないこと

 ただし、公認会計士としての専門性を持つ社外役員であれば、「しいて言えば」何ができたかを考えてみると、いくつか手がかりはあります。

 最も重要なのは、内部監査部門および会計監査人とのコミュニケーションの質を変えること だったと思います。報告書を読んで印象的だったのは、ニデックには三様監査連絡会、つまり監査等委員会・経営管理監査部・会計監査人が一堂に会して問題意識を率直に交換する場が制度として設けられていなかったという事実です。それぞれの活動状況報告は形式的に行われていましたが、率直な問題意識の交換にはなっていませんでした。

 私自身の社外役員経験からも、ここは強く共感する部分です。三者が形式的に同席する会議は多くの会社にありますが、本音で語り合える場になっているかは別問題です。公認会計士であれば、内部監査部門の調書や監査法人の指摘事項について、専門用語で対等に対話することができます。

 このうち、内部監査部門については、もう一歩踏み込めた可能性があります。内部監査部門の担当者は同じバックボーンを持った人間です。同じ職業的背景を持つ者として、会計事務所出身の内部監査担当者と日頃から専門家同士の対話を重ねていれば、形式的な報告関係を超えた信頼関係を築ける余地はあったと思います。

 報告書には、内部監査部門が日本電産サーボの会計不正調査の際に、業績プレッシャーの存在を訴える子会社幹部のヒアリング議事録から、本社プレッシャーに関する記載を削除した事実が記されています。担当者の中には「決算さえ人質に取られていないのであれば、もっとちゃんと調査をしてこの際膿を一気に出してしまいたい」というメールを内部で交わしていた者もいました。

 つまり、内部監査部門は本当のことを知っていたのです。彼らが「言えなかった」だけです。もし公認会計士の社外監査等委員が、内部監査部長や担当者と日頃から対話を重ね、ある程度の人間関係を築けていれば、こうした「言えなかった事実」が内々の相談という形で耳に入ってくる可能性はあったと思います。「実は調査報告書には書けなかったのですが」という相談です。

 会計監査人については、立ち位置が異なります。会計監査人は会社から独立した外部の専門家であり、監査等委員と「人間関係を築く」相手ではありません。しかし、専門家同士として、より深いコミュニケーションを取ることはできます。監査法人の指摘事項や懸念点について、形式的な講評を受けるだけでなく、公認会計士の社外監査等委員が専門的な見地から踏み込んで質疑を交わせば、監査法人が抱いていた違和感を引き出せた可能性はあります。実際、報告書によれば、PwC京都の担当パートナーは日本電産サーボのヒアリング議事録に対し「本社による不適切な過度なプレッシャーが根本原因であることを示唆しているようにも見受けられる」というコメントを付していました。監査法人も気づきの端緒は持っていたのです。それを監査等委員会の場で深掘りする対話があれば、と思わずにはいられません。

 会計不正を「組織的に明らかにする」のではなく、「専門家同士の対話の中から気づく」というアプローチです。制度設計としては脆弱ですが、ニデックのような企業統治環境においては、これが現実的な手がかりだったかもしれません。社外役員の仕事の本質は、月一回の会議で質問することではなく、平時にこうした対話を地道に積み重ねておくことなのだと、私は経験上感じています。

 ただ、ここまで書いてきて、もう一つ正直に認めなければならないことがあります。

 仮にそうした対話を通じて何かに気づいたとして、永守氏のような創業者カリスマに対峙して問題提起をした場合、社外監査等委員としての任期を全うできただろうかという問題です。

 ニデックでは、永守氏の後継者と目された吉本氏も関氏も、業績悪化の責任を取らされる形で会社を去っています。社長でさえそうなのですから、社外役員が永守氏の経営スタイルそのものを正面から疑問視した場合、「合わない人」として再任されない、あるいはより直接的な形で退任を求められた可能性は十分にあったと思います。私自身、あまり立場上詳しく述べることはできませんが、何度かこういったことで会社から追い出された経験があります。

 第三者委員会も提言で「経営陣への遠慮・忖度から、社外取締役の心の中に、是々非々で問題提起することを躊躇う気持ちが生じるのは、社外取締役も人である以上、避けることはできない」と、極めて率直に書いています。これは社外取締役個人の弱さを責めるのではなく、制度として個人の勇気に依存することの限界を認めた表現です。社外役員経験者として、この一文には深く頷きました

4.この事例の教訓―仕組みとしての三者連携

 このような試行錯誤から、私が改めて確認したことがあります。社外取締役の機能発揮は、結局のところ「個人の能力や倫理感ではなく、仕組み」に依存するということです。当然社外取締役としての「在り方」は大切でも限界はあります。

 第三者委員会の提言の中で最も実務的に重要だと感じたのは、監査等委員会・内部監査部門・会計監査人の三者連絡会の定期化です。「監査等委員会単独、あるいは内部監査部門単独では、火中の栗を拾うことに及び腰になるとしても、三者が問題意識を共有し連携しつつ問題に取り組む体制を整えることができれば、是々非々の対応も可能となる」という指摘です。

 一人で永守氏に対峙するのは無理でも、三者で連携すれば対峙できるかもしれない。そして、その三者連携を実効性のあるものにするには、それぞれが立ち位置の違いを尊重しながらも、率直に問題意識を交わせるコミュニケーションを平時から重ねておくことが不可欠です。

 

 

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