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AIの時代に「DX敗戦」に陥る本当の理由——経営者は「本気」になっているか

2026.06.22

目次

1.研修で刺さった一言——技術論より大事なもの

 先日、日本公認会計士協会の研修に参加しました。テーマは「AIをいかにDXに活用するか」。登壇者の話は非常に興味深く、生成AIが業務プロセスをどう変えるか、具体的なツールの活用事例など、最新の知見が詰まった内容でした。しかし正直に言えば、私の心に最も刺さったのは技術論ではありませんでした。研修の中で出てきたある一言——「結局、経営者が本気で取り組まないとDXは絶対に失敗する」。これだ、と思いました。

 公認会計士・コンサルタント・CFOとしてこれまで多くの企業に関わり、上場企業の社外取締役として経営の現場も見てきた私には、この言葉が深く響きました。DXが頓挫する会社の問題は、技術でも予算でも人材でもありません。経営会議でDXの重要性が議論され、「DXを推進する役員を置こう」という話になる。コンサル出身者やIT企業出身者を外部から招く。ここまではよくある話です。

 しかし問題はその後です。経営陣は「DX担当役員を採用したから大丈夫」と安心してしまいます。その担当役員には人事制度を変える権限も、業務プロセスを変える権限も、各部門を動かす権限もない。責任だけを渡され、実行するための権限が伴っていない。さらに厄介なのは、他の役員が協力しないことです。DXは必ず既存業務の変更を伴います。すると各部門から「うちのやり方には理由がある」「今でも困っていない」という抵抗が起きる。他の役員も表向きは賛成しながら、自部門を守ろうとする。結果、DX担当役員だけが孤立し、数年後に「やっぱりうちの会社にDXなんて必要ない」という空気だけが残る。これがDX失敗の典型的なパターンです。

2.1200億円でも変われなかった理由——セブン&アイと製造業の社長

 DX失敗の「教科書」として今でも語り継がれる事例があります。セブン&アイ・ホールディングスです。同社は2019年以降、業界平均の2倍を超える1,200億円というDX投資計画を掲げました。2020年4月にはグループDX戦略本部を新設し、ITのエキスパートとして知られる米谷修氏を執行役員に迎え、13万人の従業員を抱えるグループのDX戦略を託しました。

 しかし結末はあっけないものでした。2021年秋、米谷氏はひっそりとグループを去り、DX戦略本部は事実上縮小。1,200億円を投じる中央集権的な戦略は見直しを余儀なくされました。それ以前にも、同社にはデジタルの敗戦が続いていました。2015年に始めたECモール「オムニ7」は1兆円の売上目標を掲げたまま低迷し続け2023年に終了。2019年スタートのスマホ決済「セブンペイ」はセキュリティの甘さで不正アクセスが発生し、わずか3ヶ月で廃止されました。

 報道が明らかにするのは、DX部門が事業会社から集中砲火を浴び、経営陣がDX部門を「見殺し」にしたという構図です。担当役員はITのプロでした。しかし組織を変える権限は与えられていなかった。これは巨大企業だけの話ではありません。

 コンサルタント仲間からも、似た話を耳にします。ある製造業の社長が、DXコンサルに数百万円を払い、業務効率化システムを導入したそうです。しかし半年後、そのシステムはほとんど使われていなかったと聞きました。「現場が慣れない」「入力が面倒」「前のやり方の方が早い」——そんな声が返ってきたとのことです。根本的な問題は何か。社長自身がそのシステムをほとんど見ておらず、会議でも取り上げていなかったことだと言います。

 現場は「社長が本気じゃないなら、自分たちも従わなくていい」と察します。組織とはそういうものです。一方、うまく回った会社には、はっきりとした共通点があると聞きます。社長自身がシステムを使い、会議でデータを見て、変化を具体的に語っていたのです。ツールは同じでも、トップの姿勢が組織の行動を変える。金額でも人材でもなく、経営者の本気度が結果を分けていました。

 

3.「外部に任せれば大丈夫」という幻想と、経営者が持つべき意志

 失敗した企業の話を聞くと、「やはり外部から来た人間ではうちの会社は分からない」という声が出てきます。しかし本当にそうでしょうか。多くの場合、外部人材が失敗したのではありません。会社側が変わる覚悟を持たなかっただけです。

 外部の人間は変革のきっかけにはなれます。しかし経営陣自身が変革の主体にならなければ、どんな優秀な人材でも成果を出すことは難しい。これはDXに限りません。財務改革でも、経営改革でも、外部の専門家は「今日踏み出す一歩」を示すことはできます。しかし歩くのは、経営者自身でなければならないのです。

 生成AIが広がる今、この問題はさらに切実です。かつてのDXは「ITシステムの導入」と同義に語られることが多かった。しかしAIはそれとは次元が異なります。単なる効率化ではなく、仕事の意味そのものを問い直すツールです。士業・会計業界でも、定型的な書類作成、税務チェック、議事録作成といった業務はAIで代替が加速しています。

 問われるのは、それを脅威と見るか、人間がより高度な判断と関係構築に集中するための解放と見るかです。そしてAIは、使う人間の問いの質に依存します。「どんな問いを立てるか」は、経営者こそが決めなければならない。経営者が「AIを誰かに任せよう」と思った瞬間、その会社のAI活用は終わります。DXはツールではなく、経営者の意志の問題です。その意志があってはじめて、AIも、システムも、外部人材も、本来の力を発揮できます。あなたの会社のDXは、本当に「経営者の仕事」になっているでしょうか。

 

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