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週刊ダイヤモンドの取材では書かれなかったアンリツの統合報告書についてのお話

2021.02.16 カテゴリ: 企業の業績分析企業経営での留意点会計・税務管理会計経営戦略

1.ROEとROIC

 少し前になりますが今年新年早々週刊ダイヤモンドからの取材がありダイヤモンドの2月6日号にインタビュー記事が掲載されました。実は、結構いろいろお話ししましたが、取り上げられたのは残念ながら一部だけでした。紙面の関係もありますし、あまり過激な事は書けないので仕方ないとは思います。

 特に議題になったのは基本的には企業の経営指標についてでした。投資家、特に「物言う投資家」などからはROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)はもう古く、TSR(株主トータルリターン)を経営指標とするべきと言われているがどのように思うか?ということでした。

 ちなみにROEは当期利益÷自己資本、ROICは税引後営業利益÷(純資産+株主資本)です。この2つを経営管理指標とされている理由は以下だと私は思います。まずROEは株主から預かった資本を効率的に扱っているかで、株主資本コストという資本調達コストにくらべてROEが大きければ株主の資金を効率的に使っているし、逆であれば毀損しています。ROICはWACC(加重平均資本コスト)にくれべてどうかという話で、いわゆる株主コストと負債コストを加重平均した率に対してどうかという話で有利子も考慮に入れて効率的に運用しているかという話です。

 個人的にはこの2つの指標どちらがすぐれているかという議論はFinanceの専門家はともかく、さほど経営者には意味がなく私はどうこの指標を使うかの方が重要だと思います。

2.TSRは使えるか?

 一方これからはTSRだという考えがあるようですが一定期間の(キャピタルゲイン+配当)÷投資した時の株価です。一定期間は1年~5年くらいで定めます。要するに株買って一定期間保有していたらどれだけ儲かったかという指標で、投資家が企業に対し、この率を高くしなさいというのはよく理解できます。要するに儲けさせろ!というわけですから。

 企業の経営者の通信簿としての指標としてはTSRは適切でしょう。経営者は結果責任、株主を儲けさせる事は資本主義である以上大切な事ではあります。ただ、「経営指標」として適切かといわれると私は疑問です。単なる結果であってこれでは経営管理はでません。私は経営指標はその達成を目指すために従業員が一丸となって頑張れる指標であるべきだと思っています。

 配当は経営陣が決めるものですし、株価は市場の需給が決めるものなので従業員は頑張りようがあります。従って、TSRについては経営者は投資家のために気にする必要はあるが、「経営管理指標」としては使えないというのが私の考えです。

 守秘義務があるので詳細は言えませんがいろいろな会社で「物言う株主」の傲慢なトーンのレタ―などをクライアントから見せていただいたこともあるのでTSRについては冷たい見方をしています。要するに、『一部の「物言う投資家」が主張するROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)はもう古く、TSR(株主トータルリターン)を経営指標とするべき』とは全く思わないというのが私の意見でしたがこれは載っていませんでした。(当然こんな輩のいうことをすべて真に受けていたら経営はぼろぼろになります・・のような暴言は乗らなくて当たり前だと思いますが(笑))

3.ROEやROICは経営指標として使われているか?

 ROICやROEをXX%目標と揚げる会社は少なくありませんが、ほとんど従業員に浸透していないというのが私の個人的な印象です。中堅クラスの上場企業だと役員クラスの事業部長レベルの方とお話をしても目標ROEを達成するためのアクションプランなど特に具体的な考えはないケースが多いです。そういった意味では社内としては社長と一部の経営陣がなんか言っているなぁというレベルでTSRと一緒の状態です。。

 ただし、きちんとこういった経営指標を活かしてこれを開示している会社も当然一方ではあります。ROICについてはオムロンがすごく有名で私も前著「現場で使える決算書知識」などでも取り上げさせていただきました。そこでダイヤモンドののインタビューでは地味な会社であまり、一般的にはあまり注目されていないアンリツのROEの使い方について言及させてもらいました。

 アンリツ、BTBの会社なので普通の消費者にはなじみのない会社です。申し訳ないですが私も基本的には名前くらいしか存じ上げませんが、ただ統合報告書は財務系のコンサルタント仲間からは非常に定評があります。計測機器や食品の品質管理機器、トレーサビリティを管理するシステムなどを販売している企業です。

 過去10年のTSRを開示してまするが過去10年のTSR平均成長年率は19.8%と20%近くTOPIXの平均6.0%を大幅に上回っています。売上は1000億程度ですが純利益(親会社の所有者に帰属する当期利益)は133億円と非常に高収益な優良企業です。それではアンリツはROEの使い方においてどのような点で優れているのでしょうか?

 

4.ROEの使い方でアンリツの優れている点

 ROE15%を目指すと宣言していますがこれは非常に高い値です。ROE経営の嚆矢と話題になった伊藤レポート(2014年に発表された伊藤邦雄一橋大学教授を座長とした経産省プロジェクトの最終報告書)でいわれた日本企業の目標ROE8%を大きく超えるレベルです。

 このROEは単純に以下のようにデュポン分解で分解する事が出来ます

当期利益÷自己資本=収益性(当期利益÷売上)x効率性(売上÷総資産) xレバレッジ(総資産÷自己資本)

 アンリツはきちんと分解しどそのように経営に生かしているか統合報告書の中で丁寧に説明しています。このデュポン分解のうち、レバレッジは借入等で自己株式を購入して自己資本を減らす等で比較的容易に上昇させることができるので安易にこの方式を使う企業は過去多かったです。ただし、自己資本を減らすという事だからリスクは高くなります。アンリツの場合、DEレシオや自己資本比率も同時に見ながら必要以上のリスクを取らないようにモニタリングをしていることが統合報告書から読み取れます

 加えてアンリツではこの収益性、効率性、レバレッジに分解して会社全体としてどのような方針で行っていくのかある程度アクションプランの形まで落としているという事を統合報告書で開示しています。例えば収益性指標達成のために各事業部でどのような点を重視するかというような点です。
 

 計測器は5Gビジネス、PQA(製品品質保証)はグローバルビジネス展開を目指し、ROI(投資リターン)4%以上と定めているなど各事業部門の行動指針までROEが落とされているのです。

 まとめると経営指標、投資家にその企業の本当のパーフォーマンスを理解してもらえるという投資家目線も大切ですが一方で社内に対してきちんと行動指針として伝わらないと意味がありません。経営指標の使い方としては従業員に投資家目線で行動してもらうための指標と言い換えてもよいかもしれません。こういった意味ではアンリツは有効に活用している好例に見えました。

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