エーザイの復活とプロCFO(最高財務責任者)
2020.03.18 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、会計・税務、管理会計、経営戦略。
目次
1.エーザイの復活の理由
少し前の日本経済新聞で珍しくCFO(最高財務責任者)の活躍が取り上げられていました。取り上げられたのは製薬会社のエーザイで、エーザイといえば有名だったのが認知症治療薬の「アリセプト」が2010年に世界各国で特許切れとなり、いわゆる「特許の崖」に突入し2007年をピークに利益も低迷しました。
しかし、製薬会社は研究開発に資金を投下して新薬を開発しなければなりませんし、株価が低迷すると他の産業よりもより買収のリスクが高まります。この苦境から立ち直り2020年3月期には13年ぶりの最高益を達成する勢いです。この一番の要因は米メルクと共同開発・販売をしている抗がん剤「レンピマ」であることは間違いありませんが、比較的裏方であるCFOの活躍に紙面が割かれていたので興味を持ちました。
記事によるとエーザイのCFOの柳氏は取引銀行出身ですがいったんUBS証券に転出して戻ってきたという日本企業にはユニークな経歴の持ち主です。米国MBA卒で外資系金融でも活躍できるといったいわゆる「プロCFO」といえるかもしれません。日本企業の場合、「経理部長」や「財務部長」はいるのですが実際にキャッシュを生み出すCFOというのは少なく、プロCFOというものが必要と思われる一つの例かと思われます
CFOが行うキャッシュを生み出す方向性としては一つはPLを改善するという方法と不稼働資産や運転資本の改善によってBSを改善する、資金調達によって増やすの3つかと思います。欧米グローバル企業と比べ日本企業が遅れがちなのがBSの改善だと思っており、それを見ていこうと思います
2.BSの改善
日経では子会社と不動産の売却で900億、政策保有株の売却で300億、運転本の改善で300億、合計1500億をBSの改善だけでキャッシュを
たたき出し、研究開発費をねん出しつつも年150円配当を継続して株価をしっかり保つことができたと述べています。
まず子会社と不動産の売却を見ていきます。大きなものとしては2014年3月の113億の美里工場の売却があるでしょう。子会社も2015年度 エーディア、エーザイフードケミカルネットで205億(売却収入ー子会社の現金預金)2016年 サンノーバ 65億 2018年 エルメッドエーザイ 58億と合計328億を子会社の売却から生み出していました。
次に運転資本ですが、そもそもエーザイの場合キャッシュフローで「運転資本」の項目を設けて開示しており、その重視の度合いがよくわかります。その運転資本によるキャッシュの増加は2015年 359億、2016年 15億、2017年 630億(470億はメルクからの契約一時金等)2018年40億
とメルクからの契約一時金という特殊要因を除いても約560億を運転資本の改善から生み出しるというのが読み取れます。
運転資本は大まかに言うと売掛金+在庫ー買掛金なので早目の回収や在庫管理の適正化の一方、支払いは適宜伸ばすといううことで改善することができます。数字を見る限りエーザイの場合は早期回収にかなり力を入れていたようです。特に営業債権は2015年度と2016年度合わせて258億ほど減少しています
最後は政策保有株式についてです。これは、いわゆる持ち合い株式ですが保有にかかる便益を資本コストで割りびいた割引現在価値(NPV)を
取得残高と比較して経済的合理性を確かめているようです。どちらかというと財務戦略として単に減らすではなく、経済合理性から試作保有株をなぁなぁではなくかなりシビアにみていると言えるでしょう。なお、2018年度は、政策保有株式のうち7銘柄(すべて全株式)を売却したと発表しています。
3.財務戦略と現場のバランス
日本の場合CFOの役割というと資金調達>PLの改善>BSの改善でしたが、近年ROE重視が叫ばれてきたこともあり、随分BSの改善の部分も資本効率性の観点から重視されるようになってきた気はします。しかし、どちらかというと自社株買いや社債発行などによるレバレッジを高めるなど悪く言うと小手先の手段が多かった気はします。このエーザイのような地道なバランスシート改善でキャッシュを言う方向性ももっと追求してよいかと思われます。
一方で単純に財務戦略だけを追求すると現場を無視した、一方的な下請けたたきや顧客との関係悪化につながります。これは、欧米グローバル企業の財務コントロールが強い会社の負の側面です。在庫の削減は間違えると欠品につながりますし、売掛金の回収を早くすれ顧客の離反、買掛金を不当に延ばせば単なる下請けいじめです。
私も欧米グローバル企業時代あまりにも現場感のない財務的なゴールの追求だけを目的とした本社からの指示に抵抗したことも何度かありました。基本的には数字でデメリットを説明すればわかってくれる人たちですが、逆に数字で説明できないことは無理です。
現場と資金調達、PLの改善、BSの改善この3つのバランスをきっちりとっていくことが今後のCFOにとっては大切なのでしょう。もう少し、日本企業も「経理部長」や「「財務部長」ではない「プロCFO」を育てる、または外部から招へいするという事は、資本効率を重視する物言う株主の登場もあり、ますます大切になっていくと思われます。