日本の企業社会は妊婦に厳しいか?
2018.12.10 カテゴリ: ダイバーシティ経営、企業経営での留意点。
目次
1.妊婦加算の話
テレビや新聞で「妊婦加算」の話が話題になっています。簡単に言うと妊娠した女性が医療機関で受診した場合、医療費の一定額が上乗せされる制度です。妊婦に対して医療機関が配慮をきちんと行った診察を行うために設けられた制度です。当然、配慮しても配慮しなくてもこれは請求できるので極端な話、(短期経済的に)一番得をするのは金だけとって何もしない医者です。したがって、都市伝説かもしれませんがコンタクトレンズの処方に妊婦加算を受けたなどの例が出ているなど、何の配慮もされていないのに(もしかすると気が付かないところで配慮しているのかもしれませんが)お金だけ取られるという声が上がっています。
通常何か公的制度で加算があると証拠書類などを残し、自治体などの細かい監査もあるのですが、いつも医師会など政治的に強いところには甘い印象がぬぐえません。そもそもの制度設計がずさんであったということでしょう。
2.日本企業と米国企業の妊婦に対する対応
一方、これだけ少子高齢化が叫ばれると、妊婦などをみるとこれからの日本を救う救世主のように見えてしまうのは行き過ぎでしょうか?ただ、一方企業などではどのように妊婦は扱われているのでしょうか?そもそも制度という話の前にあくまで個人的体験ですが職場の空気が随分異なる気がします。
私がある外資系企業の日本法人で働いていた際の話です。当然外資なので比較的自由でセクハラ・マタハラなどには非常に厳しい会社です。ある日自分の部下の女性から非常に暗い顔で「お話しがあるのでお時間とっていただけますか・・・」と言われました。自分の予想としては待遇に不満があって転職かしら・・・などとモヤモヤしながら話を聞き始めたところ「検査で妊娠がわかりました」 とのこと。正直非常に拍子抜けして思わず「それはおめでとう!よかったね。みんなでお祝いしないとね。」などと能天気な対応をしてしまいました。体調などによっては少し仕事の配分も見直さねばならないですし、彼女にとってはキャリアの中断にはなりますが当然外資系企業なので不利に扱われることはありません。しかし彼女は「皆さんには秘密にしてほしい。一方私の頭には入れておいてほしい」とのことでした。
一方同じ企業で米国本社に転勤になった際の話です。私の直属上司だった30歳後半の女性副社長からダイレクトレポート(直属の部下)数人がある日呼ばれました。彼女はいわゆる社内でも有名な女性出世頭の独りでした。「すっごくうれしいニュースがあってみんなを呼んだの!」とのこと。彼女は2人目の子供を妊娠したようです。ただ、一つ言えることはそれから後もバリバリ普通通り働いていました。ほかにも何人か妊娠した女性がいましたが、職場でBaby Showerと呼ばれるような楽しいサプライズパーティーを開いたり、とにかく妊娠はめでたいことだという感じは職場にありました。
なんで同じ企業で制度的にはほとんど変わらないのにこんなに雰囲気が違うの?と不思議に思いました。
3.日本だとなぜ妊娠は暗い話題なのでしょうか?
正直妊婦に対して日本と米国どちらが気を使うかというと実は明らかに日本の方が気を使っているような気がします。私も自分の部下の場合少しずつ負荷を減らしてあげないといけないかしら、でも妊娠の事実を告げずにどうやって行おうかなどと悩んだ気はします。彼女からもとりあえずしばらくは現状のままでかまわないとのことだったので、そのまま働いていたのですが、悲しいことに流産となり、少し自責の念にかられた思い出があります。こういった流産のリスクもあるのであまり公にしてほしくないという側面はあったかもしれません。
実は米国では同僚、上司、部下も仕事の成果に関してはほとんど妊婦に対して配慮していないと感じます。別に妊婦であってっも求める成果に全く以前と変わりはないわけです。ただし、逆に言えば成果さえあげていればどのような働き方でも構わないわけです。したがって、私の上司はバリバリ成果は出しながらも、妊婦検診的で仕事を抜けても「すみませんが抜けさせていただきます・・・」という感じでは全くありません。良くも悪くもみなあまり他人がどのようなワークスタイルかは干渉しないし、少なくともあまり興味をみせません(実はまったくないわけではないです)。
日本の場合外資系企業で自由といっても、周りの目や空気があって忙しいときに会社を抜けたり、早く帰ったりするのは気分的な抵抗はあります。一つにはこういった「空気」や基本的な働き方の文化があるのではないかと思います。加えて、私の妻も妊娠していた際、働くのはつらくないが通勤電車はつらいと言っていた通勤の問題が日本の場合はあるかもしれません。ただ、それも働き方が自由であればすいている時間に電車で来ればよい話でやはり自由な働き方が根本にはあるのではないかと思います。
4.日本企業の妊婦に対する対応はどうするか?
大企業に限ってかもしれませんが、会社の表面的制度だけ見れば日本企業の方が米国企業より妊婦に優しいかもしれません。しかし、自由な働き方ということではフレックスなど制度は整っているのですが運用はあまり浸透しないようです。理由としては所詮まだまだ仕事の成果をきちんと測る仕組みがあいまいで、長く働く忠誠心がある人間が評価される仕組みが実はまだまだ主流なためではないかと思います。ですから実は単に妊婦さんへの対応だけではなくこのあたりは根の深い評価制度や職場文化の問題が横たわっている気がしてなりません。評価制度や働き方文化の改革が根本的には必要なのではないかということです。