いきなりステーキは危険水域から脱却できるか
2020.02.05 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.修正条項付き新株予約権のからくり
2月3日にペッパ―フードサービス(いきなりステーキの運営会社)が新株予約権(修正条項付き)の行使状況について開示をしていました。内容としては発行予定額520万株のうち97.5万株は行使され資金が振りこまれているとのことなのでざっくり10億円くらいの資金は調達できると思われます。ただし、当初は69億の資金調達の予定でしたが、株価は当時よりも30%程度下落しているので実際の調達金額は50億を割り込むと想定されます。これはもともと1月15日に第三者割当として日興証券にあてに新株予約権(行使価額修正条項)を発行するものです。この新株予約権の行使価額は1332円で1500円まで株価が上がると、1332円で新株予約権を行使して一株当たり1500円-1332円=168円の利益が引き受けた証券会社にでます。しかし、2月3日で株価955円と大幅値値下がりの状況です。ここで「修正条項付き」というからくりが効いてきます。
この条項により行使価額が前日の株価(加重平均)の92%に修正されます。例えば、もし加重平均株価も955円だとすると955円 x92%=878円で行使ができます。しかし、ペッパ―フードの場合、毎日のように株価が下がっているのでたとえ878円で取得したとしてもリスクが高いのでは?という疑問もわいてくるでしょう。ここでもう一つ株を借りてくるという手法があります。例えば、1月22日の株価終値1011円でしたが、翌日株を借りてきて売ったとします。多少下がるかもしれないがうまく売れば1000円程度で売却できるでしょう。そして、下がったところで例えば2月4日に878円で行使して、借株を返せば1000円-878円―借株料でそこそこのもうけが出ます。証券会社側としては株を借りて売った時より行使価額が下がったほうが儲けが出る訳ですから通常こういった行使価額修正型の資金調達があると株価はすべて新株予約権が行使がされるまで下がり続けます。証券会社にとっては濡れ手に粟、株主さんにとっては我慢の日々が続きますね。当然会社側も株価が下がるのは望ましくないですし、かつ調達金額も下がってくるので(行使価額 x行使株数なので)かなり追い詰められた末の資金調達といえるでしょう
2.どれだけ苦境か?
財務面から見るとかなりのピンチです。2016年末に自己資本は27.7億円 自己資本比率は30.1%なのに対し、借入金は14.3億程度でした。これがみるみる財務体質が悪化、2019年9月末には自己資本 12.5億、自己資本比率4.8%、借入金 92.8億と悪化、債務超過も目前となってきました。DE レシオ(借入金を自己資本で割ったもの:通常1.0以内が望ましい)が2016年末0.5であったものが7.4と非常に悪い数字です。
かなり財務的な安全性的には危険水域に入ってきたといえます。原因も2019年に入って30億近く流出、加えて12月27日には追加で銀行団より41億の借入なので財務的にはもっと悪化しました。このような追い詰められた状況ですから新株予約権(修正条項付き)による資金調達もやむををえないものがあります。株主の方としては腹立たしいと思われますが、多分私も同じ立場だったら同様の資金調達をするかもしれません。
3.このような苦境にどうしてなったか
いきなりステーキがペッパ―フードサービスのほぼ主力店ですのでこの苦境が根本原因といえます。いきなりステーキですが、2018年3月までは積極出店もあり、月次売上は前年比250% 一方既存店売上も116.8%と好調でした。飲食・小売り業は既存店売上が重要です。要するに同じ店で売り上げが落ちればその店の経営が苦しくなるわけです。ところが2018年4月からは100%をわり(つまり同じ店当たりの売上が下がってきた)2019年8月からは前年比60%台となって極度の不振になりました。確かに、外食はコンピになどの中食との競争厳しいとは言われていますが、マクドナルド102.1% 、吉野屋111.3% 、同じく苦戦が話題になっている大戸屋でも94.1%と、他社を見てもいきなりステーキは突出した一人負けになっています。
いろいろ原因は挙げられているとは思いますが、根本原因は無理な拡大でしょう。2016年末116店、2017年186店、2018年386店、2019年9月末で484店と3年間で店舗数が約4倍以上になっています。この間売上原価率が55%→59%と4%も上がっており、いろいろな意味でワキが甘くなってきたといえるかもしれません。そして、米国出店(失敗に終わり担当役員槌山氏は退任)やカニバリと言われる自社店舗間の競合による共食い状態、そしてなんといっても既存店売上が大幅に低下ということは「飽きられた、店の魅力が低下した」ということでしょう。拡大に目がいってしまい、地道な1つの店舗の継続的改善がおろそかになったといえるでしょう。
本来はこういった無理な拡大などにブレーキ踏んでくれるのはCFO(最高財務責任者)です。しかし、ペッパ―フードサービスの場合、CFOは創業者の息子さんの一瀬健作氏でご経歴などを見てもどちらかというと営業畑の方です。そういった意味では本来ブレーキを踏むべき役割の方がいなかったというのが実は最大の問題だったかもしれません。