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ソフトバンクGの行為は不当な税金逃れ?

2019.08.07 カテゴリ: グローバルビジネス企業経営での留意点会計・税務

1.ソフトバンクの不思議

 ソフトバンクグループ(ソフトバンクG)の取引について日本経済新聞で8月3日に解説記事が出てました。必ずしも日経の記事はいつも正確なわけではないのですがそれを元に少し考察して、どちらかというと税務会計の専門家視点というよりもビジネスパーソン目線で見ていきたいと思います。

 簡単に経緯を言うと6月19日にソフトバンクGが2018年3月期の決算で約4000億の所得申告漏れがあったと様々な新聞に掲載されたのがはじまりです。一般的に4000億も申告漏れがあれば日本の実効税率は約30%ありますので約1200億円の追徴と約120億円の加算税・・・などとなるはずです。しかし、ソフトバンクGは約2兆円の累積繰越損失があるので、税負担は生じないとのことです。今回新たに追加で所得が生じても過去の損失があるのでそれと相殺されて、税金の支払いは必要ないよ・・というのが今回のケースです。

 でも、ソフトバンクG(税金の話なので単体決算)でそんな繰越損失あった記憶はありません。2018年3月期で繰越利益は3800億程度存在します。したがって、おそらく会計上の利益と税務上の利益が大きく異なる部分があるのだろうと想像されます。

 

2.アームHD社をめぐる取引-その1

 日本経済新聞にある記事を見るとアームHD社をめぐる取引においてソフトバンクGに税務上の損失が出たという話です。アーム・リミテッド(アーム社)については実際に事業を行っているアーム社の他にその親会社であるアームHDがあります。欧米の企業の常でその間に様々な中間子会社があり、その間の取引もあるようですがそのあたりの詳細な説明は省きます。

 まず行ったのはアームHDがアーム社の株式をソフトバンクGに対して現物配当することです。お金で配当する代わりにアーム社の現物株を持株のうち75%を配当しました。2017年のソフトバンクG(単体)の財務諸表を見ると2017年3月期に関係会社受取配当金が2.9兆円あり、この大部分がこのアーム社株の配当にあたるでしょう。そして、税引前利益は2.8兆円ありますが、それに対して支払った法人税はわずか278億円です。税率約1%です。不思議ですよね。

 これは日本の税法における外国子会社配当の益金不算入という制度のためです。配当というのは税金を支払った後の利益から行われます。海外で一回課税されているのにまた国内で課税されるのは2重に課税されてしまうのでそれは企業に酷でしょうということでこの制度が出来ました。政策的意図としては海外でため込んだ利益をもとに日本でももっと投資してほしいということもそこにはあったと思われます。

 ともあれこの制度では海外子会社からの配当のうち95%部分は利益とされずに課税されないわけです。そして、税金の計算上は利益となっていない=繰越利益はほぼ増えていないということに注意してください。

 ちなみに海外子会社で配当をするとその国で源泉徴収されるケースがあります。アームHDはイギリスの会社でイギリスと日本の間は租税条約があり、こういった配当に対し課税されない取り決めになっています。

3.アームHDをめぐる取引 -その2

 そして次に行ったのが、アーム社の株式を手放したのちのアームHDの株式の処理です。これを新聞記事によればソフトバンクビジョンファンドなどに拠出したということになっています。税金計算上は拠出した際に時価評価(非適格現物出資のためだお思われます)されます。もともとはドル箱のアーム社を持っていたため価値はあったはずですが、アーム社の株式を手放せばいわゆる「カラ箱」のようなものでありここで約2兆円の損失が税金の計算上発生します。したがって、税金の計算上簡単に言うと2兆円累積で利益が出るまで税金を払わなくてよい仕組みを作り上げたわけです(実際は年ごとに認めらる上限はありますが)。

 まとめると、アーム社、アームHDの株式をうまく使って、ソフトバンクGがほとんど税金を払わなくてよい節税の仕組みを作り上げたわけです。このようなことを国税当局はなぜ見逃しているの?と疑問をいだくと思われます。

 

4.抜かれない伝家の宝刀

 ここで伝家の宝刀と言われるのが法人税法132条1項の同族会社の行為または計算の否認です。要するにこういったグループ会社を巧みに使えばその中の取引はやり放題で様々な税法の抜け穴を使ったことができます。そこで「法人税の負担を不当に減少されるような行為」については税務当局側が正しいと思われる方法で税金を再計算できるといった規程です。要するに節税スキームをグループ会社内で行った場合認めないよという話です。ただし、企業側も当然そこは「経済合理性」がその取引にあるロジックを組み立ててきます。税務当局は「経済合理性がなく法人税の負担を不当に減少されるような行為である」ことを立証しないといけないですからこれはきついです。

 裁判でも先日もある外資系レコード会社の案件で東京地裁でこの伝家の宝刀を抜いたもののあえなく敗訴しました。この判決をみると東京地裁は「法人税の負担が減少するという利益を除き、当該行為又は計算によって得られる経済的利益がおよそないかor 当該行為または計算を行う必要性を全く欠いている」というケースでないと経済的合理性を欠くとは言えないとしています。つまり、経済的利益が全くなく、節税目的だけでスキーム組んでいるよねといった非常に狭く解釈しているわけです。

 このような裁判所が割と企業側の裁量を広く認める方向になれば伝家の宝刀も竹ミツとなりかねません。ソフトバンクのようなバリバリの専門家軍団を抱えた会社と対抗しようとは税務当局も思わなかっただろうと思います。

5.ソフトバンクGの行為は不当か?

 あくまでも外部の詳しい事情を知らない人間から見れば、節税目的がほぼ100%でその他の経済合理性は付け足しであろうと勝手には思います。個人的な好き嫌いでいえば嫌いです。しかし、このレベルの世界的企業であればいかに法に反しない範囲で税金を少なくするかは「コスト削減」として必要であろうというのがグローバルな流れです。日本だと税務担当というと申告書作成と税務調査があった時、追徴など取られないように準備する守りの部門の印象がまだまだ強いです。

 しかし、欧米の企業だとどのような企業グループのの組織の構成などどうやったら税金が最小になるかなどを考え積極的なコスト削減を狙っていくかなり攻めの部門であることが多いです。そして数千万から億レベルまでかなりの高給を得ているケース多いです。守りの部門であると割と保守的な安全な処理になってしまうのでやる方としても面白みもありません。一方攻めの部門はかなりビジネスセンスもないとできない部署でかなりレベルの高い税理士(または会計士)でないとつとまりませんが、金銭的には魅力的な仕事だと思います。

 ソフトバンクGは法の範囲内でやっており、不当に税金逃れをしているとは私は思いませんし、欧米グローバル企業だとどこが悪いの?といった感じでしょう。ただ、所詮日本人的な私の感覚からすると少し悪賢くやりすぎかなとは思います。しかし、一方、特にグローバルな日本の大企業はもう少し攻めの税務はやってもよいのではと思います。

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