気候変動に関する企業の開示はなぜ必要で今後どうなっていくか?
2021.06.09 カテゴリ: グローバルビジネス、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.新コーポレートガバナンスコードの改訂
少し前になりますが4月6日に新コーポレートガバナンスによる提言が金融庁により公表されました。基本的にはこのラインに沿って東京証券取引所で新コーポレートガバナンスコードが策定されます。そして、この新コードによるコーポレートガバナンス報告書を上場企業は12月末までに提出が必要です。
大きな点は以下ですが一番注目を浴びているのは取締役会に関する事項でしょう。取締役のスキルマトリックス(どんなスキルがあるか)、とプライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(それ以外は2名)というコードです
そして、中核人材におけるダイバーシティも話題をよび、人材登用におけるダイバーシティ確保への目標、方針、取り組み状況などを公表することになりました。
その中で地味目ですが、気候変動リスクも策定されました。それは以下です。
・プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
・サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示(自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具
体的に情報を開示・提供すべきである。)
今回は少し地味な気候変動リスクの開示についてお話しします
2.なぜ気候変動開示が必要か
日本企業の統合報告に関する調査2020(KPMG)によるとTCFD賛同を有価証券報告書で開示36%、統合報告書84% TCFD に沿った開示がある会社8% 統合報告書76%でした。日経225構成企業といういわゆる日本を代表する大企業ではある程度開示が進みつつあります。
そもそも大抵の方にとっては「気候変動開示」などというものが必要だということにピンとこないのかもしれません。企業の経済活動はその活動する市場の外にプラスまたはマイナスの影響をあたえる事があります。これを外部経済性というのですが、わかりやすい外部経済性のマイナス例としては公害があるでしょう。今までの社会の目も公害の様な因果関係が比較的わかりやすいものについては企業の経済活動に厳しい目を向けてきたが、近年かなり広い範囲において考えられるようになってきました。
有名なのがナイキでナイキが製造委託しているベトナムやインドネシアの工場などで低賃金・長時間労働・児童労働などが発覚して世界的な不買運動などが起こったことがありました。
同様に気候変動、特にCO2(二酸化炭素】排出については厳しい目が向けられるようになりました。特に石油メジャ―などには厳しい目が向けられ6月3日にはエクソンモービルで機関投資家の圧力により環境活動家が同社の取締役に就任することが決定しました。社会の目や企業の倫理観などもありますが、気候変動について一番企業の行動を動かしたのがこのような機関投資家の動きでしょう。ノルウェー政府年金基金などが有名で世界中の投資でCO2排出に大きな影響をあたえると企業、例えば化石燃料に関係する投資を引き揚げた事が注目を浴びました
こういった流れで起こっているのが、CFDおよびTCFDに沿った開示です。ところでそもそもTCFDおよびTCFDに沿った開示とは何でしょうか?
3.TCFDおよびTCFDに沿った開示とは
「TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB)*により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された『気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related FinancialDisclosures)』
を指します」(TCFDフォーラムページより引用)
ここで提言されている気候関連の情報開示がTCFDに沿った開示で、以下の4つです
・ガバナンス 気候関連のリスクと機会に係る組織のガバナンス
・戦略 気候関連のリスクと機会がもたらす組織のビジネス・戦略・財務計画への影響
・リスク管理 組織がどのように気候関連のリスクを識別・評価・管理しているか
・指標と目標 気候関連のリスクと機会を評価し管理する指標と目標を開示
自分として特に興味があるのが気候関連のリスクと機会の財務計画への影響と気候関連のリスクと機会を評価し管理する指標と目標でしょう。さて日本企業の開示はどうでしょうか?
4.日本企業のTCFD提言による開示
気候関連のリスクと機会の財務計画への影響については各企業シナリオ分析をして、CO2対策が取られつつも気温が上昇した時のリスクと機会について述べています。ただし、財務インパクトの数字まで言及している会社は多くはありません
統合報告書で評価の高い企業の1つである丸井の開示をみてみるとシナリオに従ったリスクと機会について非常に丁寧に記載されていました。例えば1.5度気温が上昇シナリオで気温上昇による風水害の影響が49億、政府規制や再生エネルギーんの価格上昇などCo2削減体制の移行のリスクで30億一方でグループ全体で消費者のライフスタイルの変化に対応することによって54億程度の機会があるなどと細かくリスクと機会について分析しています
https://www.0101maruigroup.co.jp/sustainability/vision2050/3business_03.html
気候関連のリスクと機会を評価し管理する指標と目標を開示についてはScope1~3によるCO2発生量とこの削減案について述べています。前述の丸井においては以下のように述べています
「2030年までに2017年3月期比Scope1+Scope2を80%削減、Scope3を35%削減(2050年までに2017年3月期比Scope1+Scope2を90%削減)」
Scope 1は自社の燃料使用に伴う直接CO2排出量 Scope2は自社が購入した燃料の間接排出量、Scope3はバリュチェーン全体(商品・サービスの調達、販売、輸送、廃棄など)を指します。おそらくこのあたり想像もつかないほど複雑な仮定と計算をつみかさねないと算定出来ないといえるでしょう。いくつかの企業は認証機関より認定をもらおうとしていますが却下されている例も多くまだまだ途上なようです
ただし、今後企業の開示の中でだんだんと重要視されていく項目だと思いますので注視していくとよいかと思われます