ワタベウェディングにみる減損と繰延税金の取り扱い
2021.03.31 カテゴリ: 企業の業績分析、企業経営での留意点、会計・税務、会計監査。
目次
1. コロナ禍の減損と繰延税金の取り崩し
1 2月決算企業の有価証券報告書の提出が始まりほぼ本日で出そろいました。一部コロナ禍で大きく業績にマイナスの影響を受けた企業の提出も行われています。ただでさえ、コロナ禍で業績が悪くなった企業に対して、傷口に塩を塗るように追い打ちをかけるのが減損と繰延税金資産の取り崩しです。まず、これらがどういった者からの説明から始めます。
まず減損とは何かです。企業は投資を行ない、それを回収します。その際の想定としては必ず当然投資額<投資による回収額のはずです。一般的には投資額は固定資産として貸借対照表に計上(M&Aの場合は一部ののれん)です。ただし、その計上額は投資額<回収額を前提としての金額の計上です。もし、投資額>回収額ならば投資額を回収額(正確には回収額の割引現在価値)まで減額すべき、それが減損の基本的考えです。したがって、今回コロナ禍で業績が悪化して将来の投資回収が著しく減少する見込みであれば投資額を減額=減損損失の計上が求められるわけです。
もう一つの繰延税金資産の取崩見てみましょう。たいてい会計上の費用と税金計算上の費用(経費)はズレが生じ、税務計算上経費として認められるのは後ろ倒しとなります。そうすると、会計上は税金の前払い(経費が少なく計上されるので払う税金が多くなる)となりますので資産である繰延税金として計上されます。
ただし、将来の業績が悪化と予想されればこの前払いは資産性がないと考えて引当を行います。これが繰延税金の取崩です。なぜならば例えば将来が赤字ならばいくら税務上経費として認められても、もともと払う税金が赤字だとゼロなので税金が減りません。つまり前払税金は戻ってこないというわけです。
こういったことで業績の悪化⇒減損・繰延税金の取崩でただでさえ悪い業績がもっと悪くなるのです
2.コロナ禍での会計監査人の対応
さて、コロナ禍で業績が大幅に悪化した企業はどうなるでしょうか?こういった企業はコロナ禍において「減損の兆候」が起こっていることは確かです。「減損の兆候」をざっくりいうと営業キャッシュフローが継続してマイナス(の予定)、資産からの回収の大幅な減少が生じるような変化や見込み、経営環境の悪化、資産価値の減少といったことです。
コロナ禍で特に居酒屋系飲食業の店舗などはほぼこの4つが全て当てはまるケースが多いのではないかと思われます。そうすると現状の延長線上で将来予測をすると、将来の回収額(キャッシュフロー)の現在価値はその資産の価値を大幅に下回ると考えられ大幅な減損が生じると考えられます
繰延税金資産も現状の延長で赤字からの回復が弱いとすればほぼ価値がない(将来税金が戻ってこない)という事で取崩になってしまいます。コロナ禍で減損と繰延税金資産の取崩のダブルパンチでなお一層経営成績が悪化すると言う事態に陥るわけです
さすがに公認会計士協会においても硬直的な監査をされると企業業績に与えるインパクトが膨大なので会計監査人に対するガイドラインを出しています。これは大きく上場企業の決算にも影響を与えていると覆われます
少し乱暴ながらこのガイドラインを一般的な言葉で言うと以下のような感じです
・コロナ禍の影響はほぼ誰も予想が難しく、企業外部の客観的かつ正確な情報は存在しない
・企業の経営者が一定の仮定を置いて会計上の見積りを行うのはやむを得ない
・この仮定が合理性を欠いていない限り認めるし、当然同業他社などと異なっていても差し支えない
・ただし、どのような仮定を置いて見積りをしたのかわかりやすく説明を行う事が望ましい
例えば経営者がコロナ禍の影響は一時的ですぐ回復するとしていて減損・繰延税金の取崩を全くしていなかったとしましょう。ところ、数年後経営悪化状態が続き減損・繰延税金の取崩が必要になると、さかのぼって以前の会計処理の訂正をもとめられ(遡及処理)それを認めた監査法人(会計監査人)の責任が追求される恐れがあります。そうすると監査法人(会計監査人)としては保守的にかなり強引にて減損・繰延税金の取崩を求めてくる事が想定されますコロナ禍で巨額の減損・繰延税金資産の取崩が相次げば株式市場などは大混乱になると思われます。
ところでこのようなガイドラインの下、実際にどのように減損・特損が行われたのでしょうか?
3.ワタベに見る繰延税金と減損の取り扱い
ワタベウェディング(ワタベ)は3月19日私的整理である事業再生ADRを申し立て、スポンサーとして名乗りをあげている興和の傘下に入ることとなりました。コロナ禍で結婚式が激減、特に海外ウェディングをワタベは得意としてきたので大打撃だったと思われます。私事ですが私の義姉もワタベのお世話でハワイで挙式したのでなじみがあり、お気の毒とは思います。復活をお祈りしています。
さてワタベの2020年度12月の決算を見てみましょう。繰延税金資産に関しては今回の連結決算では全額取り崩しとなりました。実は前期まで最高で7億程度程度と売上約480億に対し低収益ではありましたが、4期連続で税引後利益で黒字は確保していました。今期の赤字が税引前で110億とあまりに巨額で債務超過にもなってしまったため、繰延税金資産の取崩は止むを得ないものと考えられます
一方減損については固定資産関係については5.5億程度減損を行いましたが、簿価77億の総額からすると巨額の減損とは言えず、のれんについては減損はゼロです。
注記を見ると2021年の秋口までコロナの影響が続くと仮定して見積りを行っています。ちなみに統計を取っているわけではないですが12月決算のほとんどの企業がこの記述でした。割と予測は良くも悪くも横並びです。つまり2022年からはほぼ元に戻るという仮定ですから減損はほとんど計上されないわけです。これを見ると監査法人の方もある程度画一的ではない柔軟な対応をとったといえるかもしれません
こういった施設型の業態でその閉鎖等を決定し、一種のリストラクチャリング損失を出した企業は多かったですが意外に巨額の減損といった企業は少なかったというのが今回の決算の感触です。