一般的な日本企業にCFO(最高財務責任者)が実質的にいない理由
2021.01.04 カテゴリ: CFO、企業経営での留意点、経営戦略。
目次
1.「CFO~最先端をいく経営管理」の著者のキャリアパス
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。さて、年末年始いくつか本を読みましたがその中で「CFO~最先端をいく経営管理」という本を取り上げました。読んでの自分の感想ですが、まず日本企業にはほどんどこの本で定義しているようなCFO(最高財務責任者)が存在しないという事です。日本企業でも肩書がCFO(最高財務責任者)という肩書の方はいらっしゃいますが実態はほとんど「財務経理担当役員」でしかありません。どこが違うのかという事について私も自分なりの考えがありましたが、そのようなことがきちんとまとめてあるなと感じたのが「CFO~最先端の経営管理」でした。また、この本は3人の共著ですが3者3様のキャリアの形成も非常に興味深く拝見しました。
比較的外資系企業で典型的なキャリア形成が石橋氏で一流大学卒で日本の一流企業(富士通)に入社、その後欧米一流MBA(スタンフォード)を卒業しコンサル会社や大手外資(インテル)に入り順調にキャリアを重ねるといった比較的ファストトラックを歩んできた方です。割と私の友人で外資系で活躍されている方には比較的多いパターンです。
やや異色なのが、昆氏で外資系には珍しいたたき上げで、外資系はGEジャパンのアカウンタント(一般社員)からスタートそこからCPAや大学院などご自身で勉強するといった、たぐいまれな努力によってぐんぐん実力をつけていってしっかり認められた方のようです。普通だとなかなかこういったたたき上げの方は相当実績を上げていかないと社内の昇進は難しいのが一般的です。
ちょうど私と同時期にGEにいらっしゃって、ほぼ同じようなポジションだったのでお名前をお聞きしたような記憶はありますがお目にかかったことはないと思います。同じGEといっても私はGEキャピタルで当時目黒、昆氏のGE横川メディカルは日野であり離れているので交流はあまりありませんでした。お互い似たような時期に米国本社にいたようですが、私は金融部門の本部のコネチカットで彼は医療機器部門なので多分中西部のあたりの本社なのでもっと離れていました。私も、自分自身、典型的ファストトラックなキャリアではなく、アナリストレベルから昇進していったので共感を覚えました。ただし、昆氏の努力精進には正直自分は及ばないと実感はしましたが。
もう一人の大矢氏は公認会計士(監査法人)からファンド⇒ベンチャー(YAHOO)といった新しいキャリアで同じ日本の公認会計士として今後こういった形で公認会計士も活躍していくといいなと思うようなキャリアでした。
さて、いくつか本書の中で自分の経験と重ね合わせ強く印象に残った部分を揚げていきたいと思います
2.Acountavility (説明責任)という概念
この中で、印象に残り深く共感した部分にAccountability(説明責任)という概念があります。CFOには経営成績についてAccountability(説明責任)があるという事については異論がないと思われます。しかし、日本語では説明責任と訳されているので、要するに経営成績の説明ができてしまえばそこで責任は果たしたと思われている方も多いのではないかと思われます。しかし、実際にはCFOは経営成績の結果にコミットして結果自体にも責任を持つというのが本来の意味です。
自分のことを思い出すと、以前GEで信販・クレジットカード事業の財務の責任者、いわゆる日本拠点のCFO的役割だったことがあります。経営目標の達成に一番悩んでいたのはビジネスリーダー(GEでは事業部門が法人格を持っていたり持っていなかったりするので事業部門のトップを総称してビジネスリーダーと呼んでいました)と自分だっとたいう気がします。経営目標の達成が危い際には、リカバリープランを自分が中心になってディレクター(部門長)を集めて作成していましたし、目標が達成できなかった際などは、下手をするとビジネスリーダーよりも自分の方が本社から責められているような気にさえなりました。
全社的プロジェクトなどがうまくいっていないとそのプロジェクトリーダーよりも自分の方が胃が痛くなりそうになるなど正直、非常に苦しい面もありましたが、事業経営を支えているという喜びもあったことは確かです。
こういった意味でほとんどの日本企業にはCFOは存在しないと感じるのですが、これは必ずしも日本企業のCFOの能力スキルの問題というよりもそもそもそのような役割を果たせるような仕組み・組織体制になっていないのではないかと思われます。
そのあたり、この本では半分以上をかけてFP&A(Financual Planning & Analysis)機能の欠如をあげています。それではFP&Aとはどのような機能なのでしょうか?
3.FP&Aセクションが日本企業にはない
日本企業でいうとFP&Aは経営企画が近いと思います。経営企画は各企業によって役割は異なるとは思われますが、一般的には本社にいて事業計画を取りまとめをして計画実行の指揮を執るセクションと思われます。そして、そもそも経営企画がCFOの直下にある日本企業は少ないです。事業計画が他の担当役員の下にあったら、財務の目標と事業の計画が分離しているわけですから、それはCFOとしてAccountabilityの果たしようがそもそもありません。
加えてFP&Aはは事業部にほぼ大部分の部隊がいて事業部長と一緒に経営を担うビジネスパートナーであるという点が本社に引きこもっている感の強い経営企画とは異なります。したがって、FP&Aの事業部の責任者(インテルやマイクロソフトなどではビジネスコントローラーと呼んでますのでこの名称で統一します)は事業部長と本社CFOの2者に報告し、いわゆるマトリックス組織をとっています。
一方でこのような話を日本企業の方にすると、「わが社には事業部経理がいます」と話をされます。しかし、事業部経理との違いはいかに事業部の意思決定に関与しているかでしょう。一般的には事業部経理は起こったことを会計処理として淡々と処理・記録していく部門です。ビジネスコントローラーの場合、意思決定に深く関与しています。各部署は新しいプロジェクトなどを始める際にはまずビジネスコントローラーに相談にきて、どのように進めるかを両者で決めていきます。主として財務的インパクトについて分析しますが、特に思ったようなリターンが見込めない場合は一緒に打開策を考えることまで行います。全社的視点も考えながら各事業部のビジネスパートナーとして一緒に汗を流す立場といってよいでしょう。このあたりは各事業部や部署(営業・人事・総務・ITなど)には担当のアナリスト呼ばれるスタッフを配置していますので彼(女)らが中心となっていきます。このあたり日本企業の経営企画よりもかなり個々の事業部、部署に深く関与しているといってもよいでしょう。極端な話例えば営業部担当のアナリストは上司の私のそばではなく、営業部に机があったりします
こういったFP&A機能を持っているためCFOは全社について深く掌握していて、全社的意思決定に大きな影響をもたらします。おそらく日本企業の財務経理担当役員よりかなり現場感は持っているわけです。
ROEやROICなど投資家目線の数値目標を持っていたとしてもこれを現場まできちんと浸透させている日本企業は極めて少ないと思います。私の経験だと、小さな上場企業レベルだと社長と財務経理担当役員以外は実質的にROEの目標があっても達成するための具体的な行動計画を意識していないことしばしば見ました。欧米企業がこういった投資家目線の数値目標が徹底できる理由の大きな一つにFP&Aの存在があると思います。こういった仕組みなしでROEだのROICなどを全社目標として入れても絵に描いた餅でしかないと思われます。
「欧米流の経営」なぜかこのFP&Aの導入だけはほぼ進んでいないのは非常に不思議です。この本ではそのあたりを丁寧に説明しています。一番読んでいただきたいのは日本企業の経営者・経営陣だと思われる本ではありました。